昇圧チョッパー回路の原理
DC-DCの昇圧回路としてメジャーな昇圧チョッパー回路。しかし、昇圧チョッパー回路はなぜ"昇圧"できるのでしょうか。コイルの性質
まずは、コイルの性質についての予備知識です。自己誘導
コイルには電流を流し続けようとする性質があります。電流を流そうとすればそれを妨げる方向に起電力が生じ、電流を遮断しようとすると、それを妨げる方向に起電力を生じます。後者の”電流を遮断しようとすると、それを妨げる方向に起電力を生じる”現象を自己誘導と呼び、電流の変化が大きければ大きいほど、起電力が高くなります。
昇圧チョッパー回路はこの性質を利用して昇圧しています。コイル電流を高速で遮断し、高い起電力を得ているのです。※昇圧チョッパー回路の動作また後ほど説明します。
コイル電流をi、時間をt、コイルのインダクタンスをLとすると、コイルには
の起電力Eが生じます。ここで (di/dt) は電流の時間変化を示します。
そもそも、(di/dt)=1のとき、E=1となるLを1Hと定義しているわけですから、当然といえば当然です。
昇圧チョッパー回路の動作
さて、では昇圧チョッパー回路の動作原理を解説します。昇圧の原理
昇圧チョッパーの基本回路を以下に示します。昇圧チョッパー回路は、SWを連続でON-OFFしてBATTERYからの電圧を昇圧します。スイッチがON、OFFすると回路にどのように電流が流れるのか、見てみましょう。
まずswがONの時は赤矢印のように、コイルに電流が流れます。
ここで、swをOFFにして電流を遮断すると、コイルは電流を流し続けようとするため、コイルに起電力が生じます。(自己誘導)
このコイルの自己誘導起電力によって、青矢印の方向に電流が流れ、コンデンサを充電します。
swをOFFするというのは一瞬で電流を遮断するということですので、電流の時間変化、(di/dt)の絶対値はかなり大きくなります。
ここで、コイルに生じる自己誘導起電力は、
であるということを思い出してください。
自己誘導起電力は、コイル電流の時間変化が大きいほど、大きくなります。
コイル電流をほぼ一瞬で電流を遮断したとき、(di/dt)の値はかなり大きくなります。1Aのコイル電流が流れていて、ターンオフ(swを切っても少しの間は電流は流れる)に1μsecかかったとしても、(di/dt)は-1000000となります。
Lを100μHとすると、自己誘導起電力は-100V(電圧の方向が電源と逆のため電圧は負になる)となります。
...明らかに電源電圧どころではない電圧が生じていますよね?
このような原理で、昇圧チョッパー回路は電源電圧を昇圧しています。
おまけ
実際に昇圧チョッパー回路をくむときの参考程度に、興味のある方はご覧ください。実際の回路
さて、理想的な回路での動作原理がわかったところで、実際の昇圧チョッパー回路を見てみましょう。まずは、実際の回路において、スイッチングに物理的なスイッチは使えませんので、多くの場合、FETやトランジスタ、IGBTなどが使用されます。
ここではFETを使用することにしますが、他の素子でも大きな違いはあまりありません。
以下の回路は、基本回路のswをFETに置き換えたもので、実際の回路の基本です。FETのゲート電圧をON-OFFすることによって動作します。
部品の選定
さて、次は各部品の定格について考えてみましょう。コイル
昇圧チョッパ回路には普通、トロイダルコイルと呼ばれるコイルが使用されます。
トロイダルコイルには流せる電流の限界があり、その限界を超えると磁気飽和という現象を起こして、インダクタンスが急激に低下し、空芯コイルと同じ状態になります。
この状態になると、大電流がながれ、最悪回路がダメになります。
そうでなくても出力電圧は(di/dt)とLの積のため、インダクタンスが落ちると、出力電圧も落ちます。
また、インダクタンスが小さいと、スイッチング周波数が高くなります。高い周波数でFETを駆動すると、エネルギーロスが大きくなります。
コイルに求められるのは、定格電流が大きいこと、インダクタンスが低すぎないことです。
電源
電源に求められるのは、コイルの定格電流以上の電流を流すことができることです。
せっかくコイルが大電流を流せるというのに、電源が貧弱では話になりません。
まあ普通は電源の能力に応じてコイルを選定します。
スイッチング素子
スイッチング素子に求められるもの、一番重要なのは耐圧と耐電流でしょう。
耐圧が低ければ壊れてしまいますし、コイル電流に耐えられるだけの電流が流せなければ壊れてしまいます。
さらに、ゲート容量が高いものは、スイッチングロスが大きくなり、ターンオンに時間がかかるため、(di/dt)も低くなります。
残念ながら、現在秋月などで手に入るもので耐圧、耐電流が十分なものは、ゲート容量が大きくなります。
さらには、ON抵抗も低いものが望ましいです。
これらすべてを満たすものは、、、あるっちゃありますが、あほみたいに(価格も性能も)高いため、実用的ではありません。
s 耐圧、耐電流、低ON抵抗のFETと、高いインダクタンスのコイルの組み合わせがベストと言えるでしょう。
ダイオード
ダイオードは、平滑用のコンデンサからの逆電圧にさらされるため、コイルの誘導電流が流れきった直後、コンデンサから電流が逆流してきます。
ダイオードは、順方向の電流が止まった直後、ほんの一瞬だけ逆方向にも電流(リバースリカバリ電流といいます)が流れてしまうという性質をもっています。
この性質が弱い(=リバースリカバリ電流が流れにくい)ダイオードが必要になってきます。
これはファストリカバリ・ダイオードとよばれるダイオードの一種で、回復時間が短く、こういう用途に最適です。
これらの部品の特性を理解し、用途におおじた部品の選定を行うようにしましょう。
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